N is for Noose / Sue Grafton [>E-H]
いやーな話である。メリケンでは一度裁判で判決が下ると同じ件でもう一度告訴することはできない。そういう訳で刑事事件で殺人罪を免れた男が今度は民事で財産差し止めをかけて訴えられた。それの調査に関わっていた師匠のような私立探偵が心臓発作で亡くなったため、Kinseyが関わることになったのだが、どいつもこいつも性格が悪くて、なんだか読んでてげんなりする。別にそれは彼女のせいではないけれど。 結局真犯人が殺人を犯した理由は実ははっきりとは分らない。自分のものにならなかったからなのか、これからの財源が断ち切られたからなのか、両方なのか。だって正当防衛とはいえまた殺っちゃうんだもの。 Apr. 2004
'H' is for Homicide
保険信用調査といっても素人相手だったのが今回の相手は大の苦手なドーラン警部の依頼でプロ相手。
相手はテューレット病という顔や体が自分の意志とは関係なく痙攣したり動いてしまうという神経性の病気を持っている。裁判になるとそれが有利に働くって言うんだから、ただ病気を甘やかしたりしない作者の態度がいい。彼の育ってきた環境は大変過酷なものであったけれど、だから何をしてもいいというわけではない、というわけだ。
最後におまけのどんでん返しのように、LAPDの覆面捜査官が実はコイツだったというのがいい。だってこの人が覆面捜査官だったら、Kinseyが関わる必要全く無しなんだもん。証人数が多くなっただけ?
そして最後に官僚主義、彼女、請求してもたらい回しで捜査料金をもらえないのだ。典型メリケンパターンとして、弁護士使って訴訟である。 Apr. 2004
Kinseyのまわりに出てくる男性はなぜこんなに「普通」ではないんだ?
ADDだかHDDだかどうしても覚えられないのだが、とにかく行動障害がある彼は、なぜか教師としてはとても優秀で、話が終わった後は西ドイツの軍事訓練の教官になった。
彼女はいつも、目に見える部分の怪我が多くて、今回もどうやらお岩さん(日本人にしかわからないね)のような顔になってしまったようだ。なのになぜ、大した義理でもないパーティに出る? 見る人がぎょっとするような顔なのに…。不思議だ。
ボディーガードというのがあんなに四六時中一緒にくっついているものなら、有名人になどなるものではない。 Mar. 2004
'F' is for Fugitive 'D' is for Deadbeat
今回は暗ーい話。なんだか余りに救いようがなくて読後感は侘しさばかり。 犯人は、小さい頃からごく普通の人並みにちょっとそれなり以上にがんばって生きていたのに、なぜこんな事になってしまったんだろう。誰かに認められ、誰かに心から愛されなければ自己確立ができないって本当はよくないのかも。
母親に似て、自分の望んだ方法で認められなければ愛されていない、理解されていないと思い込んでしまったのも、でもこんな事はよくあることだと思うのに。
彼女は頭が悪いわけでもないし、親元を離れてしまうことだってできたはず。相性の悪い親子がいることだって仕事柄よく知っていたはず。それでもなぜ、なぜ、なぜ。本当にやるせない。 Feb. 2004 'E' is for Evidence
自分が慣れた世界、モラルの標準から事実が離れていればいるほど、正面から向き合うのは難しい、という話。そしてやはり、嫌なことは、まだ温かいうちに処理してしまわないと解凍するのは大変だ。 自分が九死に一生を得るだけでなく、住むところまでふっ飛ばされてしまって私立探偵を店子に置くのは実は危ない? それでも彼女のまわりには暖かい人が沢山いてそれだけでも彼女は十分幸せだと思う。頼りきっているわけでないしね。
第三者の立場から話を見ていると犯人が割とすぐわかる、なぜ当事者だとここに気づかないか、と思ってしまうが、それは仕方のないことかも。 Dec. 2003
なんとも哀しい話だ。フランダースの犬のように、ついてない奴は一生ついてない。
自殺に対する考え方は日本とアメリカでは宗教上の問題もありずいぶん違う。私は日本的な自殺は責任回避と逃げの何物でもないと思っているが、アメリカで自殺というと敗者、もしくはもう何をどうひっくり返しても生きる意味を失った人、あとは宗教が救ってくれると信じた人になる、と思う。
この話は何をどうひっくり返しても、になってしまった哀しい10代の少年である。今までで一番やるせない結末ではないだろうか。彼が何もかも失ってしまった原因になったのは生きていても世の中の害にしかならないダニのような男である。でも世の中は本当に公平にはできていない。そして誰1人救うことなく、この事件は終わるのである。 Nov. 2003 'C' is for Corpse
今回は若者が主人公、テンポも速くなっている。
いつも不思議に思うことはなぜみんなあんなに協力的なのだろうか? もちろん探偵稼業だから、まずは聞き込みからなのだけれど、みんないろいろと答えてくれたり、更なる情報を提供してくれたり、門前払いなどということはまずないのだ。どうしてだろう。多少難色を示したところで、「調べる方法はいくらでもあるのよ、嫌な思いは後でしたくないでしょ」という脅しがまたよく効くのだ。うーん、人柄? Oct. 2003
'B' is for Burglar
それぞれの年齢によってペースがある、というのは彼の塩野大先生が八月の鯨の映画評でおっしゃった話だが、まさにこれはそのお手本。おじいちゃん、おばあちゃんが捜査の対象であるこの話は、まさにゆったりペース。そりゃドアベルを鳴らしてからドアが開くまでに数分かかるのだもの、仕方がない。そして相変わらず、ラストでは大立ち回りの大怪我、かわいそうに。 Sep.2003
'A' is for Alibi
読もうかどうしようか迷っていたが、人からいただいて読むことになった。西海岸特有の乾いた風を感じさせる、簡潔な文体、愛想のない主人公、なかなかよい読み味だ。運動が基本的に嫌いなKinseyがしぶしぶ続けているジョギングが報われるラストのみのアクションシーンが笑える(もちろん本人は怒るだろうけれど)。成功=豪邸、かっこいい車、贅沢な品々…etcと思っていない彼女が好きだ。Aug. 2003
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