とっても不幸な幸運 [畠中恵]
しゃばけシリーズがとても面白かったので買ってしまったがちょっと失敗。大沢在昌調のハードボイルド父さんが主人公なのだが、全く書ききれていない。彼の営む酒場と言う名の酒場が舞台でそこに集う常連さんがそれぞれの短編の主人公なのだが、魅力的な脇役たちのはずなのに、何故か全く書ききれていないのだ。 Mar. 2010
Fire Study [Snyder, Maria V.]
実は○○は△△だったという手は、かなり危険な手法でもある。それでなくても特化させた魔術でやりたい放題やってきてしまっているので、いい加減にしろ~という気分になっても仕方ない。周りの30代いい男が多いのが読み続ける機動力なんじゃないかと思うくらい主人公の魅力は減っている。1作目がかなりよかったので、2作、3作目の練りこみの足りなさが残念である。 Mar. 2010
Magic Study [Snyder, Maria V.]
前作の赤は囚人服とコマンダーの色だったわけだが、今回は森の緑。記憶の欠片もない生まれ故郷Sitiaに、国外追放の名目の元に魔法修行に出るYelena。両親からは戸惑うほどの歓待を受けるが兄Leifは冷たい、と言うより故意に嫌がらせ。評議会からはスパイの嫌疑を受け、Ixia王族の生き残りCahilは王権奪回を狙っていることを知る。そんな中、年頃の少女たちの行方不明事件が起こる。
能力重視で年齢や性別は問わない主義のIxiaから来たといえど魔法に関しては魔力はあっても初心者同然のYelenaがベテラン魔術師のように扱われるのがとても不自然だ。教師であるはずのMaster Magicianたちに対してもあまり生徒らしくは振舞っていない。だいたい、その国の政治体制に対して20歳前後の小娘が言いたい放題やりたい放題でいいのか?
前作では環境こそ特殊だが本人は能力的には極普通。強みであったアクロバティックな運動能力も本人の努力で磨いたものだし、魔力はまぁ、ファンタジーだからしょうがなくても特化していたわけではない。それが今回は魔術の長い歴史の中でも3人目なんていわれるような特殊能力を持っていて、その使用も出たとこ勝負で勝ちなんていう脇役でなければ許されないような反則技。こういう主人公はどこか身近なほうがいいと思うのだが。
Valekは相変わらず美味しいキャラクターである。一度心を許したものには徹底的に甘い、優しい。はううううなため息が出ちゃう。 Mar.2010
The Borrowers Afield [Norton, Mary]
さて相続するべき家にやってきた2人だが、そこにはTom Goodenoughという老人が住んでいた。家の世話を長年やってきた老人で、主が変わっても雇い人は変わらないと言うのが英国っぽい。
Tomからその後のArriettyたちの話を聞くことになるKate。お屋敷から燻し出された3人のサバイバル生活はどんなだったか。Arriettyだけは大変さよりも青空の下の自由を満喫していたのは言うまでもない。両親はかなり保守的。自分たちのことをrespectable peopleと言う彼らが面白い。
童話だから仕方ないけど、ペースは少し退屈である。 Mar. 2010
20世紀少年 [映画・DVD]
自分の子供の頃に仮面をかぶったまま外をうろつくクラスメートがいて、その存在を忘れるだろうか? もっと平凡で全く目立たないような子ならかえって忘れているかもしれない。それにあの年代でクラスメートを死んだことにするようないじめはなかった。(わははは同年代さっ!)舞台の新宿に基地が作れるような原っぱはないはずだ。もっと住宅街だったが23区に住んでいたんだから、たぶん本当。ああいう原っぱを手に入れたのは都下に移ってからだった。
トヨエツはもうすごぉくはまっててかっこよかった。で、血もつながってないのに2人はエスパーなんですか?弾が当たらないんですよね。ケンヂの姉、キリコも不思議な存在である。顔を見ているはずなのに、生き残っているのに、なぜケンヂと情報交換を全くしない? いろいろなことがご都合主義過ぎて話を楽しむことができない。 Mar. 2010
The Runaway Quilt [Chiaverini, Jennifer]
米国の歴史の授業はCivil war一色といってもいいくらい(それしか微妙な問題なしに教えられないのかも)。Elm Creek ManorがあるPennsylvaniaは北へと逃れていく逃亡奴隷の通り道だったようで、Slyviaは祖先(と言っても2代程度)がそれを助けていたことを大変誇りに思っていた。
ところがSCからQuilt campに参加したある生徒から見せられた一枚のキルトをきっかけに長い間なおざりにしていた屋根裏の整理とともに大叔母から遺されたキルトを探すことに。そこに納められていたのは最初の移植者Hansの姉であるGerdaの手記であった。
Gerdaの視点のみから書かれていることを考慮しても英雄だと思っていた祖先は実は弱さをもつただの人間でSlyviaは今まで誇りのよりどころにしてきたものを揺さぶられてしまう。
そんなSlyviaを暖かくサポートする仲間たちがよい。他人にはよく見えていることもあるし、それを素直に聴けるようになった彼女にも拍手。
黒人問題というのは未だ解決されていない米国の大問題だが、女性問題も含め、優越種と思いたい人間の性、たまたまその位置にいることができた白人種、世界の諸悪の根源を担っているように思える利用者の都合のいいように解釈した一神教、などに思いが及ぶ。規模が大きすぎて誰もが満足できるような解決策があるとは思えないが、隣人と星単位で物が考えられるようになるといいのかな。 Mar.2010
Poison Study [Snyder, Maria V.]
世界設定は爛熟期を通り越した王国を倒した新軍事政権下。ある軍事区の孤児院で育ち、そこのGeneralの息子を殺した罪で死罪が確定しているYelenaが主人公。国家を統括しているCommanderの右腕Valekから、Commanderの毒見となるかそのまま死刑になるかと言う提案を受ける。
Yelenaのサバイバルと新しく構築していく人間関係、仲間たち、当然恋物語もあるわけで、どこをとっても2次小説家たちには垂涎の材料ばかり。Valekが、ベルガリアードのシルクから、-ルパン+ハンサムにしたようで定型とはいえついつい追いかけてしまう。3部作のようなので、次が楽しみである。
追加: 作中に、戦闘訓練の一種としてkatasというのがでてくる。何の英語か結構悩んだが、空手の「型」らしいことが次の文章から類推できた。作者は空手茶帯と紹介されているし、たぶんそれで正解だと思う。外来語であるkataになんでsをつけるのかどうも理解しがたい。無理にkataなんて言わずに、空手で型を説明する時に使われているらしいRoutineを使えばいいのに。Harry Potterでも河童がKappasって紹介されているんだよねww。 Mar. 2010
Gunpowder Green [Childs, Laura]
一作目に比べると格段の面白さ。Snobbyについての作者の態度もなかなかよし。
突然半年も経ったりせず、時間枠の流れは珍しくよい。一作目の終わりにちょっと恋バナ?を匂わせるJoryからのお誘いであったヨットレース観戦から話が始まる。ちゃっかりビジネスも忘れず、お金持ち向けガーデン観戦の方々にケイタリングをするTheodosia率いるIndigo Tea shopの面々たち。ヨットレースのことはよくわからないのだが、どうもゴール時にピストルを撃ってお知らせするらしい。この大役は町の顔役の一人でもある、最近40年は若い妻を迎えた新婚さんのOliver Dixon。ところが毎年使ってきたアンティークの銃が暴発して彼は即死してしまう。
ここSouth Carolinaも赤い地域なのか、自己防衛は当たり前の模様。警察機構にたいした尊敬も信頼もないのか、被害者がその上に倒れこんだテーブルクロスと言う重要な証拠品を自分で持って帰って未提出であるだけでなく、なんと自分で大学に依頼して検査してもらっちゃうのだ。これって証拠改竄とかの罪に問われないの?これについては刑事も全く気に止めないのだが、いいの?おまけにお店の全員が捜査にワクワク。前作では天敵のようだったTimothy老も巻き込んで、シリーズはなんか違うほうに向かい始めた。でも面白いからいいけど。証拠品がめるのはどうか(まだ納得いかない)。 Mar. 2010
A Peach of a Murder / Washburn, Livia J. [>T-Z]
ビーチノベルというジャンルがある。バカンスに行った海辺なんかに転がってのんびり読むには最適という本たちだ。これはまさにその1冊。
舞台はTexas。夏には車のフロントグリルで目玉焼きが作れるという州の発展途上町に住む引退した教師、Phyllisが主人公。子供も独立し、夫は数年前に他界、家族で住んでいた大きな家を同じような引退教師たちに間貸しして暮らしている。ここParker郡は桃で有名で、毎年のフェアでは桃を使った料理のコンテストが開かれ、Phyllisが出品して数回、毎度同居人の元同僚で友人のCarolynに優勝をさらわれている。今年こそはと意気込む彼女は果樹園主が修理中の車の下敷きになって死んだところを発見。車のジャッキが故意にはずされた形跡があるらしい。そしてコンテストでは彼女のPeach cobblerを食べた直後に審査員長が変死。死因は桃の種から抽出されたシアノイド系毒であるという…。
可もなく不可もなく、テキサスという不思議な地域に思いをはせながらのんびり読める本。 Mar. 2010
The Borrowers [Norton, Mary]
ジブリの新作、の原作。ハウルもゲド戦記も原作のほうが面白かったので早速読んでみた。英国童話らしく淡々とした語り口がいい。Brambly Hedgeのような家具や小物のディティールがかわいく(時々サイズが違うような気もするが)その辺は映画化するには強み。すでに映画化されているようだが、ジャケットを見る限りお粗末であるよう。
人形サイズの人間Borrowersは、生活に必要なもの全てを大きい人間から借りて暮らしている。借りるといっても使っちゃうし返さないので、盗んでいるといったほうが正解なのだが、そうすると存在意義が負になるので、あくまで借りだ。大きい人間は供給者とみなされている。お祖父さんの古時計の穴を通路に床下に住んでいるのはClock一家。一昔前は他の家族もそれぞれ気に入った場所に住んでいたけれど、見られてしまったりして出て行かざるをえなくなり、今では彼らだけが住んでいる。盗み手・・・もとい借り手は男で、一家の大黒柱、女子供は家の仕事、外にでる事はない。ところがClock家には一人娘Arriettyだけ。父親はしぶしぶ彼女を連れて'借り'に出かける。
空も見られない床下暮らしはまるで監獄のよう。メタファーとしてラストの対比がとても面白い。毅然とした(明治女のような)おばあちゃんがキルトを一緒に作りながら、孫に語る話。実話か昔語りかなんとも粋な終わり方である。こんな風に手工芸は受け継がれるべきなんだといつも本から習う私はちょっとうらやましかった。続編があるらしいので楽しみ。 Feb. 2010