The Rossetti Letter /Christi Phillips [>P-S]
数章ずつ現代と17世紀が交互に現れる。話が進んでいくうちに続き物の紙芝居のようにいいところで終わるため、時代が変わるところで少しお休みが必要。そのたびに感じる脱力感が少しもったいない。17世紀は怒涛の恋と凪ぎの愛、現代は殻から踏み出す一歩。それぞれ面白く読める。現代でヘンに誰かとくっつけずに終わったところよかった。変身願望のティーネージャーGwendolyn(普段はGwenと呼ばれているけどフルネームかっこいい)との交流も定型なんだけどなんだかよかった。
海の都の物語で知ったヴェネツィアにこの陰謀はあまりしっくりこないし(本にはでてこない)、陰謀自体は既に衰退期に入っていたスペインにはあまり意味がなく、個人の野望達成の手段でしかなかったようだし、ヴェネツィア史を勉強している人にははてなマークがたくさんつきそうな設定ではある。フィクションとして楽しんだほうがいい。
これがデビュー作である。自作も時間をかけてよいものを書いて欲しい。 May 2010
Olive Kitteridge / Elizabeth Strout [>P-S]
マサチューセッツの小さな港町Crosbyに住む、引退した数学教師Olive Kitteridgeと家族(連合いのHenry、一人息子のChristopher)、そして周りの人々の悲喜こもごもを描いた作品。時もたまに行ったり戻ったりしつつ淡々と出来事をつづってゆく形式で、出来はいい。仕切り屋を越えて専制君主とまで言われるOliveは素のままで人を救うこともある。決して付き合いやすい人間ではないが、悪い人でもない。しかし連れ合いの息もたまに詰らせ、息子は全く折り合わない・・・。ただ、私には寂寞とか荒涼とかそういう表現が浮かんでくる救いのなさに、自分の近い将来を見てしまうとどよ~~~~~んと落ち込む。きゅうぅぅ Jan.2010
Burnt Shadows / Shamsie, Kamila [>P-S]
第2次世界大戦も終わる頃の長崎で教師をしているHiroko。 当時の女性としては自立心が旺盛だった彼女はドイツ人のKonradと結婚する予定だった。
全てを変えたのは投下された原子爆弾。たった一人の肉親だった父親とKonradを失った彼女が得たものは、背中に焼きついた母の着物の図柄の鶴が2羽。
はだしのゲンも参考資料にあげているこの作品は、戦争の落とす影と欧米諸国の無知なる傲慢さを描こうとしているのか、民族の独立に欲得で介入する「先進国」の身勝手さを描こうとしているのか、またそれを従容と受け入れる「第3国」の弱さを描こうとしているのか、はっきりとしない。
とにかくいろいろ入っていればお得ですよーというアジア系のものの売り方かななんて思ってしまったりして。
ただ、これが米国で出版されている。被害者でも加害者でもない立場の人間(作者)が、原爆投下はアメリカ人を救うために必要だった、と日本人に向かって言えるアメリカ人を描いているところには意義があると思う。
アメリカ人の読者がこの数行に、アメリカ人があまりに単純素朴、自己懐疑がなく描かれていることをどう思うのか、ちょっと興味がある。それ以前に気づかないかもしれないけど。 Jul. 2009
Cassandra & Jane /Jill Pitkeathley [>P-S]
オースティンもの。Janeとは仲がよく、作品の第一読者であり絶対の支持者でもあった姉Cassandraの視点から、当時の彼女たちの暮らし、結婚が身分保証の全てであった時代のオールドミスたちの状況や願い、不満、恋、家族たちを描いている。
全くの庶民である私には彼女たちの追い求めるものが、経済的自立以外は全く理解できない。そして彼女たちの下でその手を汚して働く「女性」たちに対する認識が全くないため、没落貴族階級女性の不満がその髪を飾る羽毛のように軽いものにしか感じられない。Janeは「自力で社会に場所を作る」女性として家庭教師やGoverness(適当な日本語がない)を擁護したりもするけれど、「自分たちが上」という視点は変わらない。個人的な資質はともかく、まっとうにがんばるという点でははるかに「下」の女性たちのほうがすばらしいと思うので、Fictionとして読むPride and Prejudiceなどとは別に、こういう話をこういう視点で書いた作品はあまり好みではない。 Oct.2008